遺言書を書くのを挫折した方へ、サクッと遺言書が残せる手順とは
まず、見つけてもらうこと!
何十万もかけて公正証書遺言を残しても、それを相続人が知らなければ、まったく効力がありません。
公証役場が保管してくれますが、死亡届を出したとしても、公証役場から相続人に連絡が行くことはありません。
相続人か遺言執行者が、遺言書の保管場所を知らないと何も始まらないのです。
遺言書を書いたら、子供や妻に「遺言書を書いてあるという事実」と「保管場所」は伝えるようにしましょう。
遺言書の形態はどれがいい
最近は、遺言の形態が増えて、この3種類があります。
・公正証書遺言
・新自筆証書
・旧自筆証書
公正証書遺言が最もちゃんとした形式です。
公証人役場に遺言を残す本人が出向いて、
ざっくり書いた原稿と口頭での伝達で、公証人が遺言書をワープロ打ちしてくれます。
ただし、証人が2人必要であったり、手数料11万以上かかったりするので、敷居が高いです。
この手数料は、資産の規模によって変動し、10億の資産で50万くらいになります。
遺言を書くのを挫折してしまう人の多くは、
この公正証書遺言を、いきなり目指してしまう人に多いです。
まずは、公正証書遺言から書くのは止めて下さい。
では、新自筆証書と旧自筆証書のどちらがいいかといえば、
これは、新自筆証書となります。
パソコンやワープロに慣れた世代では、財産目録まですべて手書きの旧自筆証書は、これまた挫折する人だらけになることでしょう。
新自筆証書なら、本文や思いを伝える附言は自筆で書き、財産目録はワープロ打ちや謄本を取ってきて、
その余白に自分の名前とハンコを押せばOKなので、こちらのほうが間違いもなく、しかも圧倒的に楽ですので、
これから遺言を残す人は、「新自筆証書」でやりましょう。
とはいっても、謄本を取りに行くのもなかなかできない人もいるでしょうし、
今!遺言を残しておきたいという気持ちが、謄本とってからだと、そのころには、やる気が萎えてしまっているかもしれません。
というか、そういう人のほうが圧倒的に多いと思います。
とにかく遺言書を残すために
そこでおススメなのは、便箋で思うままに書き進める「お手紙遺言」です。
お手紙遺言という言葉は、一般的な言葉ではなく、僕の尊敬する税理士先生がよく使っている言葉です。
おそらく造語?でしょう。
これがいいのは、簡単に書けて、最低限、遺言書として機能する要件を抑えている点です。
といってもピンとこないと思うので、さっそく作り方をご説明します。
・便箋とペンを用意してください。
・上のほうに大きく「遺言書」と書きます。
・右上や本文下に、今日の日付を年月日でいれます。和暦、西暦はどちらでも構いませんが、最近の傾向に倣って西暦を使っておいたほうが良いでしょう。
・ざっくりとした本文を書きます。
・最後に自分の名前を書いて、押印します。認印でも、実印でも構いません。
ポイントは、「ざっくり」書くことです。
まるで手紙を書くように、思いのたけを自由に書けばいいだけです。
例えば、こんな感じ、
--------------------------
遺言書
自宅の土地建物は、長男に、
預金は長女に残す。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
これくらいなら、簡単ですよね。
土地建物を特定する地番や預金がある銀行やどの会社の株かなどを正確に書こうとすると、1日では書き上がらずに途中で挫折してしまうものです。
でも、ざっくりとなら1分もあれば書けますよね。
この1枚があるれば、余計な相続争いを引き起こさないで済むかもしれません。
たった1分で、子供たちの将来を揉め事を抑えられるんですから、これをぜひやっておいたほうがいいでしょう。
もう一つ例を示します。
--------------------------
遺言書
財産の1/2を、長男に、
残りを次男、三男に残す。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
こんなのでも可です。
遺言書は普通、どんな財産があり、どの財産を誰に相続させるかを明記するものです。
財産が土地建物の場合は、1/2とか1/4に分けることは困難です。
なので、上の例は正式な遺言書としては決して褒められたものではありません。
でも、この1枚があれば、あなたの意志は子供達に伝わりますので、相続争いを抑制する効果はあります。
とにかく、あなたの思いを最低限の遺言書の形式を踏まえて残しておくことが大事なのです。
ここで、このお手紙遺言書を書く時の注意点を、
・必ず紙に自筆で書くこと
・三文判でもいいので押印すること
・日付を必ず入れること
この3つは厳守してください。
これで、立派な遺言書となりますので。
その後・・・
時間のあるときに、より細かいお手紙遺言書を書いていけばいいのです。
例えば、
--------------------------
遺言書
自宅の世田谷区尾山台1-1-1の土地建物は、長男に、
三菱UFJ銀行〇〇支店の預金は長女に残す。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
というような感じで、財産を特定できる情報を加えて書き直します。
以前書いた遺言書は破棄してしまうのでベストです。
2枚残っていたとしても、日付の新しい遺言書が優先されるのであまり問題はありませんが、
新しいほうが紛失してしまって、古いのだけしか残らない場合、最新の意志が反映されないことになりますので、
できれば古い遺言書は破棄してしまったほうがいいですね。
こうして、最初は簡単にかいたものを、何度も何度も書き換えていくというのが、挫折しないで遺言書を残す良い方法です。
そして、より良い遺言書にするために以下のようなポイントを意識しておくとよいです。
負担を誰が受け持つかをまず記載
遺言書はあなたの意志をはっきりと相続人たちに伝え、相続人たちの無益な争いを避けるという役目があります。
そのために、ぜひ書いておいたほうがいい項目があります。
この項目は、多くの人が見落としているので、ここでぜひ覚えて、あなたの遺言書に必ず記載してください。
必ず、遺言書に乗せるべき項目は、
・借金をだれに相続させるか
・妻の生活費や幼い子供の生活費をどうするか
・仏壇や墓を誰が管理するか
この3点を入れておくことで、争いの種の一つを事前につぶすことができるだけでなく、
この負担を誰に託すかを最初に決めることで、その負担を補う財産を誰に託すかが自動的に決まってきます。
例えば、こんな感じ、
--------------------------
遺言書
三井住友銀行〇〇支店からの借入と墓、仏壇は、長男に託す。
自宅の世田谷区尾山台1-1-1の土地建物も長男に託す。
三菱UFJ銀行〇〇支店の預金は長女に残す。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
財産は均等に分けることは難しく、どうしても兄弟間で差が生じてしまいます。
でも、一番相続した価値が大きい人が借金も引き継ぐとなれば、兄弟姉妹での争いも起こりにくくなるでしょう。
まとめると、
負担を誰に託すか決め、それを最初に書く。
さらに、よい遺言書とするために、
思いを伝える附言をしっかり書く
間違ってもここに誰かの悪口や恨み節をかかないようにしてください。
たまに、ここに「あのとき〇〇が反対しなければ、財産は3倍にはなっていたのに・・・」みたいな、恨み節を書く人も実際にいるようですが、無益なのでやめましょう。
ここは、相続人に感謝の気持ちをあなたの言葉で伝えればいいのです。
あなたの字で、あなたの言葉をしたためてください。
--------------------------
遺言書
三井住友銀行〇〇支店からの借入と墓、仏壇は、長男に託す。
自宅の世田谷区尾山台1-1-1の土地建物も長男に託す。
三菱UFJ銀行〇〇支店の預金は長女に残す。
附言
兄弟仲良く助け合ってください。
いままでありがとう。
感謝しかないです。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
遺言にない財産が出てきた場合に備えて
遺言にない財産が出てきたときに、誰が引き継ぐかも明記しておくとよりよい。
相続財産の配分が少なかった相続人を指定するのがよいでしょう。
--------------------------
遺言書
三井住友銀行〇〇支店からの借入と墓、仏壇は、長男に託す。
自宅の世田谷区尾山台1-1-1の土地建物も長男に託す。
三菱UFJ銀行〇〇支店の預金は長女に残す。
これ以外の財産が出てきた場合は、長女に託す。
附言
兄弟仲良く助け合ってください。
いままでありがとう。
感謝しかないです。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
配偶者が存命な場合は、2パターンで
配偶者が存命な場合は、
・配偶者と子供たちに何を残すか
・配偶者がもし先だった場合、子供たちに何をのこすか
この2つのパターンで、記載しておくべきです。
遺言執行者を指定する
冒頭に遺言書として大事なのは、
まず、見つけてもらうこと!
と書きました。
遺言執行者を決めておくことで、見つけてもらい、かつ遺言書の内容を実行してくれる可能性が高まります。
遺言の執行者は、一般的に長男とする人が多いです。
遺言の執行者は、遺言に沿って財産分割協議を開いたり、すべての相続人から承認のハンコをもらったりとなかなか大変な役割です。
特に、長男は他の兄弟姉妹よりも多めに財産を継承することが多いので、ハンコを直接もらいにいくタイミングで、他の兄弟ともめる可能性があります。
例えば弟が「なんで兄貴1人が実家を引き継ぐんだよ」みたいに一度決めたことを蒸し返されたり、なかなか押印してくれなかったり、印鑑証明を取りに行ってくれなかったり、なかには行方知らずになっていて、連絡する取れなかったりと多くの困難が待ち構える役割なのです。
ただし、これを身内でない第三者がやれば、タンタンと作業をするだけですから、文句が沸騰するような最悪な事態は避けられます。
よく信託銀行を遺言執行者に定める人もいます。
ただ、僕はあまりお勧めしません。
信託銀行の担当者は、少しでも相続争いの気配を感じると、遺言執行人の立場を勝手に降りてしまうケースが多発しています。
お金を払っているのに、肝心なところで逃げ出すようなサービスって・・・第三者の遺言執行人としてお勧めは、相続に強い税理士です。
誰にどう分けるかで納める税金が変わってくることもあるので、遺言の作成の最終段階近くから、相続に強い税理士と相談しながら進められれば最強ですね。
この場合の注意点としては、当たり前ですが、自分よりも年の若い税理士にお願いしてください。
どんな辣腕税理士でも、自分よりも年上ですと、まずいです。
さて、
指定の仕方は、遺言書のなかで、このように書きます。
--------------------------
遺言書
三井住友銀行〇〇支店からの借入と墓、仏壇は、長男に託す。
自宅の世田谷区尾山台1-1-1の土地建物も長男に託す。
三菱UFJ銀行〇〇支店の預金は長女に残す。
これ以外の財産が出てきた場合は、長女に託す。
遺言執行者として、長男〇〇〇〇を指定する。
附言
兄弟仲良く助け合ってください。
いままでありがとう。
感謝しかないです。
あなたの名前 印
〇年〇月〇日
--------------------------
これに合わせて、口頭でも言っておきましょう。
葬儀のことは書くべきか
遺言者に「葬儀は家族だけで簡素にしてください」などのように葬儀の希望などを書く人も多く、もちろん書いてもいいのですが、亡くなってスグに遺言書が見つかるかどうかわかりません。
しかも新方式にせよ旧方式にせよ、遺言書を見つけた場合は、家庭裁判所で検認という手続きが必要になります。この手続きには1ヵ月かかります。
つまり、葬儀についての希望を遺言書に書いたとしても、まともにやっていては間に合わないのです。
検認せずに遺言を見た者は、罰金5万円が課せられることになっています。
だったら、すぐ検認できる体制にしてよ!といいたくなりますが、仕方ありません。
そこで、遺言書の封はしないでおいたほうが、残された方々はありがたいと思います。
たとえ、罰金があっても、すぐに見るべきケースもありますので、封をしないほうが親切です。
一番いいのは、葬儀についての希望は、法律とは関係のないエンディングノートにも記載しておくべきでしょう。
エンディングノートに、葬儀のやり方の希望や誰が費用負担するのかを、
また、遺言書にも念のため、誰が葬儀費用を負担するのか、
を書いておくとよいでしょう。
相続対策の3大原則
最後に、相続対策で大事な3原則を挙げておきます。
上から順に大事です。
・納得性が高い財産分け
・納税資金の確保
・無駄な税金は払わない
これが、もしうまくいかないと→ 兄弟姉妹での相続争い
→ 現金がなく納税できない
→ 税務調査で否認
このどれが起きても、とても大変です。
3原則をしっかりしましょう。
とくに一番大事な「納得性が高い財産分け」のために遺言書を残すことが大事です。
このページを何度でも読み直して、とにかく簡単でもいいので、あなたの意志を書き残しください。